本年度は3年度計画の第2年度にあたり、研究の計画の中心の年度である。第1年度で開発準備されたレーザーシステム等を用いて本格的な実験を開始した。本研究の中心的な課題はレーザー場により原子系をドレスしそれにより系に生ずる量子干渉効果を用いることにより、共鳴条件を完全に満たした非線形和周波発生過程において共鳴的に増強された非線形感受率とともに発生したコヒーレント光に対しゼロ吸収の条件を達成し高効率変換の可能性を実証することである。原子系としては理論的に厳密な取り扱いが可能な水素原子を用いた。水素原子の準安定2s準位と上準位3p準位をレーザー場により強く結合させ量子干渉効果が生ずる系を準備し2s準位に対し2光子励起を行うことにより3p準位と基底準位にたいして共鳴する波長103nmのコヒーレント光を共鳴吸収を取り除いたかたちで高効率に発生させる。水素原子は水素ガスをマイクロ波放電することにより発生させ、その数密度としては最大で2x1014cm-3を得た。3p-2s遷移に対する結合光の強度、原子数密度等に対する依存性を系統的に調べ、理論的な予測と十分な一致を実験結果において得た。また、量子干渉効果の指標として光イオン化信号を用いたがその過程にも別の種類の量子干渉効果が強結合光によるAutler-Townes分裂した2本の成分の強度の非対称性として生ずることを明らかにした。なお、この効果はドレスト状態が本質的に原子系の波動関数の線形結合として表したとき対称的なものと反対称的なものとなることに対応しているとして自然に理解できるものである。強結合下での光イオン化過程の干渉効果の観測はこれが初めての例である。
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