本年度は計画の最終年度であり系統的に実験を行った。その結果、レーザー場により媒質系の応答を制御することが非線形光学に新しい可能性を与え得ることが実証された。以下に、3項目について要点を述べる。 (1)線形感受率の虚数部(共鳴吸収)の制御 結合レーザー光のラビ周波数がドップラー幅を越えると、線形感受率が極小化され共鳴吸収の中心が透明化していく様子を観測し、媒質の透明化と同時に和周波光強度がステップファンクション的に250倍と極めて大きく増大されることを実験的に示した。また、原子密度・相互作用長積を系統的に変化させ、和周波光発生の挙動を観測し、和周波光強度が非線形感受率の2乗に比例して増大していく様子を明確に観測した。 (2)線形感受率の実数部(分散・屈折率)の制御 強結合遷移に対して結合レーザー光を離調した場合線形感受率の効果は和周波光に対する吸収の影響としてではなく、分散が誘起双極子と和周波光との位相不整合をもたらすものとして現れる。この位相不整合も実効的結合ラビ周波数の増加分がドップラー幅を越えるよう結合強度を増加させれば、系の分散は位相不整合を相殺するようにふるまうことが理論的に示された。実効的結合光強度の増分がドップラー広がりを越えたとき、和周波光強度がステップファンクション的な強度増大を示すことを観測し、強結合と量子干渉効果により位相整合条件も制御可能であることを実証した。 (3)強結合下の光イオン化過程 和周波発生過程の立ち上がりとともにDressed Stateの励起過程には2光子励起過程と和周波光による1光子励起過程の双方が現れ、その間の競合・干渉が予測される。ここでは実験的にこの干渉効果を観測し理論の予測と定量的に比較した。なお、強結合下でのイオン化過程の干渉効果の観測はこれが最初の例である。
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