急激な温度勾配によって熱的に励起され自発的に発生する気柱の自励振動(熱音響振動)についてその発生条件と有限振幅領域で起こる非線形現象(特にカオスの発生に関係した)を実験的および理論的に調べそのメカニズムや性質を明らかにすることが本研究の大きな目的である。 発生条件については主として理論的な研究がなされた。音響エネルギーのソースが計算され振動の発生するための必要条件が明らかにされた。さらに音波による熱輸送が計算され音波による新しい冷凍機の可能性が示唆された。これらは平成4年から5年にかけ研究会及び国内の学会および国際会議の招待講演等で紹介され5報の論文にまとめられた。 非線形現象として以下の2点が実験的に明らかにされた。(1)熱的に励起された異なった複数のモードが競合することによりカオスが発生すること。(2)ある制限軌道をもつタコニス振動に外部から周期的な外力を加えたときに発生する準周期運動からカオスへの転移について。前者は特に2重周期からカオス(熱音響乱流と命名)の観測に加え非常に安定した3重周期運動の存在を実験的に示し熱音響振動におけるカオスへの道筋をあきらかにした。観測された熱音響乱流状態での圧力時系列を再整理してリアプノフ数、相関次元およびエントロピーを計算し決定論的カオスの存在を熱音響系で初めて明かにした。後者については巻数を黄金平均に保ちながらカオス発生点近傍に置ける普遍的性質を実験的に調べ結果的にこの複雑な熱音響振動系がある種の簡単な一次元写像とおなじ普遍的クラスに属することを明らかにした。さらに非常に強い外力のもとでは自励振動自身が抑制され外力が流れを完全に支配することを観察し自励系における普遍的な現象であることを明らかにした。これらは平成4年から5年にかけ2報の論文にまとめられ既に出版されている。
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