従来開発されてきた高分解能レーザー分光法の全ては、単一周波数のレーザー光と物質との非線形相互作用を利用するものである。本研究の目的は、光強度(振幅)が一定で周波数(位相)が高速でかつランダムに変化する、いわゆる振幅スクーズされた光子状態に近い半導体レーザー光を用いて新しい型の高分解能・高感度分光法を開発することにあった。このようなレーザー光はスペクトルが比較的広く従来の分光法では最良の光源ではないが、単一周波数のレーザー光に比べ自由度が高いため、より多くの物質の情報が得られることが我々の研究から分かった。本研究ではまず、このようなレーザー光と多準位原子系との非線形相互作用の理論的な研究を行い、その結果に基づいて、2つの新しい分光法を開発した。その1つは、原子を透過したレーザー光に現れる強度変動から原子の多くの情報を同時に得られる方法で、実験では基底状態および励起状態のゼーマンや超微細構造スペクトルを高感度で且つ最高の高分解能で得ることができた。これら開発した第2の分光法は、最初の方法を更に発展させたもので、異なった種類の原子や同位体が混在する気体から、任意の種類の原子(同位体)のみのスペクトルを観測できる方法である。種類のは周波数雑音により誘起された偏光の変化に現れるゼーマン周波数成分の検出で行われる。実際にルビジウム原子を用いた実験でこの方法の有用性を実証することができた。この様な2つの分光法は、その性質やスペクトルの詳細が不明な特殊の環境に置かれた原子系の分光に最適である。本研究では、そのような原子として超流動ヘリウム中に導入したアルカリ原子の分光・光ホンピングと、レーザー光を透過させないほど高い密度の原子の分光、固体表面に近接した原子の分光などの方法をも開発し、実験も行い、世界に先駆けてこれらを観測することに成功した。
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