本研究の当該年度においては、低速多価イオンの分子標的衝突における電子捕獲反応断面積測定を行うとともに、多電子捕獲過程を詳細に調べるための電子捕獲イオンや、リコイルイオンや放出電子の相互同時計測の行える装置開発がおこなわれた。反応断面積測定、ならびに、開発中の同時計測実験の動作テスト実験において、以下に示すようないくつかの新しい知見が得られた。 1、電子捕獲反応断面積測定 (1)Ar^<6+>、Ar^<7+>、Ar^<8+>-H_2衝突 0.1〜300eV/amμの低エネルギー領域における1電子及び2電子捕獲反応断面積が測定され、いづれの衝突系においても、低エネルギー側で1電子及び2電子捕獲反応断面積が急増する現象が見い出された。この現象は、オービティング効果によるものと解釈された。 (2)C^<4+>-CH_4、C_2H_6、C_3H_8、n-C_4H_<10>衝突 0.7〜400eV/amμの低エネルギー領域で1電子、2電子及び3電子捕獲反応断面積が測定された。測定された反応断面積は、標的分子が複雑になるに従い、多電子捕獲反応の寄与が増大するが、余り標的分子に依存しないことが判明した。原子標的に比べ、分子標的の場合の方が、多電子捕獲反応の寄与が大きいことも解った。 2、同時計測テスト実験 He^<2+>-H_2衝突、および、Ar^<6+>-H_2衝突において、2電子捕獲反応で生成された(H_2)^<2+>イオンがクーロン爆発で解離したプロトン対の運動エネルギーをプロトンープロトン同時計測法で測定することに成功した。測定されたプロトンの運動エネルギー分布から、低エネルギー衝突における2電子捕獲反応でのH_2→(H_2)^<2+>の電子遷移が、フランクコンドンの原理に従っていることが判明した。
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