地震の観測データーから得られているように、全世界的な規模で浅発地震は地殻の上部(深さ15km程度まで)でしか発生していない。この理由として、地殻の岩石が深さで脆性から延性へと転移するためであると説明されている。しかしながら現時点では、深さ10〜15km(温度300〜400℃)で推定されている延性への転移は、上部マントルに対応する温度(1000℃程度)・圧力で得られた実験データを低温低圧側に外挿したものである。さらに歪速度に関しても、実験を自然に対応させるために10^<-8>以上の外挿を行っている。地殻に起きる地震の発生機構を、より正確に現実に則した議論をするためには、この温度圧力領域における流動特性を直接に調べることが必要である。 前年度の科研費により、既設の高温高圧3軸変形破壊装置の高圧容器の耐熱性が大幅に改善され、地殻下部の温度圧力(450℃、0.8GPa)下での岩石の変形破壊実験を、高精度サーボシステムにより長時間行うことが可能になった。今年度の研究は地殻下部に対応する温度圧力で、水の化学作用がどのように岩石の破壊と流動特性に影響しているかを調べるために、Dryと水でSaturateされた岩石試料に関する実験が行われた。本実験では高温・高圧容器内にAE(Acoustic Emission)センサーが設置され、試料の変形に伴い、試料内に発生する微小破壊がセンサーのごく近くで測定された。Dry試料に比べて、水を含む場合は微小破壊の発生の様式に大きな差が見られた。Dry試料の場合は、370℃以上の温度では破壊強度の98%までほとんど微小破壊を発生しなかった。一方破壊直前では、多くの微小破壊を伴い破壊した。水を含む試料では、300℃以上の温度では、微小破壊はほとんど発生しなかったが、破壊ごく直前では多くの微小破壊が発生し、脆性的に破壊した。 これらの結果は微小地震の発生層の下に、直ちに流動的な下部地殻が存在するのでなく、準塑性的な層(微小破壊を発生することなしに岩石は変形するが、最終破壊に対しては脆性的に振るまう状態)の存在を示している。
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