氷河変動の解析および地理情報システムの構築 南アメリカ大陸南部のパタゴニア氷原をカバーするリモートセンシングデータを収集した。解析したデータは、1986年のランサッドTM、1976年の同MSS、1987年・1991年のスポット、1978年のサリュートおよび1945年以降適時撮影された空中写真等である。過去41年間の氷河末端変動の主な結果は、Jorge Montt氷河2.2km、0'Higgins氷河13.4km、Upsala氷河2.6kmの後退、一方、Bruggen氷河5.3〜8.4kmの前進であった。この様に、同一地域内の隣接している氷河でも、後退・前進が逆方向であったり、変動量に著しい差異が認められた。また、南パタゴニア氷原から東西南北に流出する48個の氷河について、地理情報システムとしてのInventory(氷河台帳)を作製した。 2.氷河変動の数値実験 氷河の消耗にcalving(氷山分離)量を含めた質量収支モデルにより、南パタゴニア氷原東側のUpsalaおよびMoreno氷河の変動過程を数値実験した。その結果、気候変動により平衡線高度が100m上昇した場合、Upsala氷河の末端は200-350m上昇し(5-8kmの後退に相当)、Moreno氷河の末端は70-100mしか上昇しないことが明らかとなった。 北パタゴニア氷原のSoler氷河では、積算気温法を用いた質量収支モデルにより、涵養量減少または気温上昇が氷河の変動に与える影響を数値実験により調べた。その結果、涵養量(降雪量)が20%減少した場合氷河末端は50mしか上昇しないが、気温が1℃上昇した場合、平衡線は約100m上昇することがわかった。今後は、氷河底面すべりを含めた氷河モデルにより、Soler氷河の変動特性を数値実験する。
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