昭和基地における潮汐観測は1966年に開始されているが、安定した連続観測は1975年からであり、現在に至っている。本研究ではこの1時間毎の資料を用い、各日の正午を中心とした25時間平均値を計算し、各日の代表値として時系列を作って解析を行った。この25時間平均値の時系列には、明確な経年変化が見られ、観測水位が地面に相対的にほぼ直線状に下降していることが認められる。しかしこれは氷河期に厚く覆っていた氷が溶けた後、その重さから解放された大地が現在もゆるやかに隆起しているためと考えられ、海面水位の長期変動を示してはいないようである。この研究では、1年周期以下の顕著な季節変動に焦点を当てた。1979年からの20年間について、平均季節変化を求めたが、昭和基地における水位変化は冬期(6-8月)に水位が上昇し夏期に下降する。これは表面層の温度変化により、夏期に水面が上昇し冬期に下降する中緯度の水位変化と全く逆である。また中緯度では変化が正弦波形に近い形を取るのに対し、昭和基地の波形は正弦波から大きくくずれ、冬期に平らなピークを夏期に尖った谷を示す。また、春先の水位の上昇期の変化速度が大きいのに対して、秋口の水位下降はゆるやかである。この特異な水位変化の一部は海洋表層の厚さと塩分値の変化の変化から説明できそうである。亜寒帯海洋での水位変化との類似性を検討した。また、この昭和基地の特異な季節変化に対応する気象・海象を調べたが、カタバ風(それも特定の海岸地域におけるもの)の季節変化に似ていることも示され、その関連に付いては研究を更に続ける予定である。この検討には本研究で明らかにされた季節変動の年々変化が大きなヒントを与えるものと期待される。
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