研究概要 |
滋賀県比良山地東斜面の大谷川流域内に3つの実験流域を設定して現地調査をおこなった。過去にやや大規模な斜面崩壊が多数発生し,その跡地が裸地として残っているが,現在は植生状態が良好な大岩谷流域と過去の斜面崩壊に引き続く表面侵食のために土壌が貧弱で,現在も部分的に山腹砂防工事がおこなわれている中谷流域については以前から水文観測をおこなっている。分担者らが滋賀県北部の植生の良好な山地に適用した直列3段型タンクモデルがこれらの流域についても適用できることが本研究で示された。ただし,大岩谷流域についてはこれらの流域と同じパラメーターの値が適合したが,中谷流域については直接流出をシミュレートする最上段タンクのパラメーターを変える必要があった。これはこの流域の大部分を占める,かつて裸地であった斜面の浸透能が裸地のそれに近いことを反映したものである。また流出特性と水温・水質の観測結果から,ここでは夏季の強雨の大部分が直接流出となり,地下水は主に融雪水で涵養されていることが,うかがえる. 中谷源流部の山頂緩斜面では植生状況が良好で,侵食作用は緩慢であるが,マスムーブメントと関係のある特異な微地形がみられ,またそれは植生とも密接な関係があることが準備段階で見いだされていた。この部分に小さい実験流域を設定し,量水堰を設置したほか,斜面にテンショメーターを設置して土壌水分の時間的変化を深さ別に観測し,特異な微地形を含む斜面で土壌をサンプリングし,土壌物理定数を計測した。その結果,表土層は数万年以上にわたるゆっくりした風化作用によって生成され,粘土粒子を多く含み,保水性が良好であり,独特な形式の中間流出を形成することが見いだされた。 大谷川流域は全体的に植生回復過程にあるが,水文地形学的特性は見かけの植生回復よりも遅れて変化すると言うことができる。
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