研究概要 |
本年度は,前年度に引き続いて糸魚川-静岡構造線に沿う中部中新統桃の木亜層群の詳細な野外地質調査および試料採集を8月に実施した.本年度4月からは定方位採集された桃の木亜層群の砂岩より,直交した3つの薄片を作製し,変形微細構造の解析に取り組んできた.桃の木亜層群砂岩中の石英粒子中には,変形ラメラ,キンクバンドおよびヒールドマイクロクラックが普遍的に発達しているが,今回これらの変形構造要素の方位分布をユニバーサルステージを用いて測定した.その結果,変形ラメラ(矢印法;Carter and Freidman,1965)やキンクバンドを用いて砂岩層が被った古応力場を正確に求めることができることが判明した(Tectonophysics,投稿中).矢印法およびキンク法(筆者が新たに提唱)によって得られた古応力場(主応力軸)に照らし合わせてヒールドクラックの定向配列を検討した結果,以下に述べる重要な新知見が得られた. ヒールドマイクロクラックの定向配列は,3つの主応力軸に対して垂直に配列する直交パターンで特徴づけられる.この場合,それぞれ主応力軸に垂直な3方向のマイクロクラックがすべて良く発達する場合もあるが,二つの主応力軸に垂直なマイクロクラックのみが認められる場合も多い.これらの主応力軸に垂直に発達するヒールドマイクロクラックは,応力緩和の過程で形成されたと結論された. ヒールドマイクロクラックに沿う流体包有物の充填温度が,今回の科研費で購入された顕微鏡加熱冷却装置を用いて測定された.その結果,流体包有物の充填温度は200〜260℃の狭い範囲に集中していることが判明し,流体の捕捉温度は圧力補正を加えて300℃程度であろうと推定された.この比較的高温のマイクロクラックの形成条件は,石英中の塑性変形とマイクロクラック活動が同時に生じていたことを示唆している.
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