研究概要 |
雲仙普賢岳の噴火に伴って,1991年5月21日から溶岩ドームが山頂に出現し始めた.溶岩の供給率は,ドーム出現数ケ月後の日量約40万立方mの最大を経て,その後順次弱まってきた.1993年に入っても,全体的には供給率が減少しているが,新たな溶岩の湧き出しが見られるなど,まだ活発な活動を続けている. これまでに,崩落したての溶岩を採取し,噴火に伴う溶岩の組成変化を追ってきた.また溶岩に含まれる造岩鉱物とガラスの組成を調べて,物理的にどのように移り変わってきたのかを追跡した.その結果次のことが明らかになった. 1.いづれの溶岩も噴火直前にマグマ混合を起こした証拠が認められる.斑晶に富む流紋岩質マグマと斑晶の少ない安山岩質マグマとの混合である.斜長石・黒雲母・角閃石斑晶には反応縁が認められる. 2.混合から噴出時にかけて結晶化した鉱物の大きさはどの溶岩でもよく似ている.また,反応縁の幅にも時間的な変化が認められない.珪酸塩鉱物で最も拡散がおこりやすいと考えられると予想される,磁鉄鉱の累帯構造にも時間的な変化が認められない.すなわち,1年半以上の間よく似た噴出様式であると推定される. 3.鉄チタン酸化物から推定される温度は,その鉱物の核部が成長した際には750℃であったものが縁部が晶出する際には850から900℃になっている.これはマグマ混合によって温度上昇したことを物語っている. 以上のことから,普賢岳の噴火をおこした溶岩は噴火の直前にのみ流紋岩マグマと安山岩マグマとが混合するという特殊条件を考えないと説明がつかないという結論に達した.
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