本研究の目的は、近年人工衛星に搭載された合成開口レーダ信号、特に極域で取得された信号の処理及び解析の基礎となる氷結晶のマイクロ波誘電特性を明らかにすることである。 このため、氷単結晶及び氷多結晶、さらに環境汚染物質である酸、ならびに塩を混入した氷結晶を使って、100MHz〜40GHzでの誘電率の測定を行った。この範囲の周波数帯では、同一の方法で精度良く誘電率が測定できないため、その周波数に適当な方法により測定を行った。 まず誘電率の実数部は、誘電率そのものよりもC軸と電磁波の偏波方向との関係が問題となる誘電異方性の測定を行った。現在まで世界各国で行われた測定で検出されていない誘導異方性が測定され、その値は約0.327であった。この結果から巨大氷体中を伝播する電磁波はさらに結晶粒方位分布に依存して、マイクロ波領域においても複屈折および反射を起こすことが明らかとなった。 氷多結晶に酸を混入すると、誘電損失が全周波数領域において混入量特にmolarityに比例して増大することが明らかとなった。また酸は、結晶粒界及び三叉粒界に偏析していることが、その誘電損失の測定解析から推定できた。 氷多結晶に塩を混入すると、共晶点で誘電損失の値が急激に変化することが明らかとなった。これは従来の測定例からみて混入量が微少であっても明白に起こり、混入塩基イオンと電磁波の相互作用について更に追求すべき問題である。 以上の結果を用いて極地氷床へのマイクロ波の浸透深さについても、シミュレーションし、予想以上にマイクロ波が侵入できることを明らかにした。 また、上記研究を発展させ、人工的に粒径・密度を制御した雪のマイクロ波誘電率を測定し、誘電率の周波数依存性、粒径依存性、密度依存性それぞれに、積雪中のマイクロ波散乱理論を適用することによって、測定値を説明することができた。この研究は日仏共同の研究の成果であった。
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