スメクティック液晶における反強誘電性出現の原因を明らかにするため、主に2つの方法で実験を行った。第1は反強誘電性を示すさまざまな液晶の混合物の相図を作ることによって反強誘電性の強度を議論した。第2はX線回折によってスメクティック層構造の秩序度を求め、強誘電相と反強誘電相の層構造の違いから反強誘電性の出現原因を微視的な視点から考察した。 まず、反強誘電性液晶にしばしば現れる副次相の同定のためにコノスコープ像観察システムを構築した。次いで、このシステムを用い、強誘電性の強い液晶試料と反強誘電性の強い液晶試料の2元混合物の相図を作製した。これによって、排除体積効果によって安定化される強誘電相と分子の双極子-双極子相互作用に基づく分子の2量体化によって安定化される反強誘電相の競合によってさまざまな副次相が現れる、いわゆる「悪魔の階段」のモデルを確立した。 X線回折ではスメクティック層構造による高次の回析を精度よく測定し、層の秩序度を求めた結果、強誘電相から反強誘電相への相転移に伴い、秩序度は不連続に増加することが分かった。その結果、分子の重心位置の分布はこれまで定説となっていたサイン関数的なものではなく、反強誘電相ではかなり1次元格子に近いものであることが判明した。また、強誘電相に比べ、反強誘電相では層間隔が絶対的に小さいことも明らかにした。このような事実は反強誘電相の出現原因としての分子の2量体化モデルを支持するものである。 その他の成果としては、(1)転位と転傾の複合欠陥である捩位の初めての観察、(2)ラマン散乱、IRスペクトルによる分子、並びにその局所部位の配向評価、(3)誘電測定による配向ベクトルのゆらぎの観測、(4)円偏光2色性によるらせん構造の考察などもある。
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