本研究は、スピン偏極したヘリウム準安定原子ビーム源を開発すること、及びこれを用いて表面最外原子層の電子スピン状態を解析することを目的としている。代表者の転任が研究初年度と重なったため研究全体が当初の計画より遅れたが、最終年度は、高輝度ヘリウム準安定原子源の作動とヘリウム準安定原子のスピン偏極化の実験、及び既設準安定原子脱励起分光装置による表面最外層電子状態の研究を行って、本研究のまとめとした。 1.スピン偏極ヘリウム準安定原子源の開発: ホローカソード/ノズル/スキマ-間の放電を利用した準安定原子発生部と円偏光照射によるスピン偏極化部を持つスピン偏極ヘリウム準安定原子源を製作した。準安定原子発生速度として10^<13>s^<-1>str^<-1>のオーダーを得た。円偏光はHe高周波放電光を直線偏光子とλ/4板を通過させて発生させた。 2.準安定原子脱励起分光によるCs吸着Ge(100)表面電子状態の研究: Ge(100)表面上のCs吸着及びそれへの酸素の共吸着系を対象にして、表面に於ける局所電子状態密度を抽出した。これにより金属原子から外来分子への電子移行を直接検証した。しかしSi(100)で見られたCsから酸素への完全な電荷移行とは対照的に、Ge(100)表面での電荷移行は不完全なままに留まること、CsはGe基板から酸素を引き抜く傾向にあることなどを明らかにした。以上を通じて、準安定原子を用いた電子分光が表面の局所電子状態分析にいかに有効であるかを改めて実証した。
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