この研究の目的は、固体の摩耗量が摩擦速度により著しくかつ複雑に変化する理由が、摩耗量と摩擦距離の関係(摩耗進行曲線)が比例的でないことによる、という本研究者の推論を実証し、それによって材料の耐摩耗性を発揮できる速度域を特定しようとするものである。 従来より金属同士の辷り摩耗において、摩擦の初期にはシビアー摩耗と呼ばれる摩耗率の高い摩耗形態があらわれるが、ある距離摩擦するとマイルド摩耗と呼ばれる摩耗率のごく低い形態に移行することが知られていた。俗に「なじみ」と云われる現象である。本研究者はピンオンディスク式摩耗試験機を用い、摩擦速度100mm/sから2m/sの範囲において、Cu/FeならびにNi/Fe摩擦系についてこのシビアー・マイルド摩耗遷移を含む摩耗曲線を詳細にしらべた。その結果、摩擦速度が高まるに従ってシビアー摩耗の摩耗率は低下してゆくが、一方シビアー摩耗の期間は永くなり、マイルド摩耗に移行し難しくなることが判った。そのためある一定の摩擦距離辷ったあとの總摩耗量は摩擦速度が上昇するにつれて増大し、ある速度において頂点に達し、それ以上速度が増すと逆に低下することになる。これによって摩耗の速度特性の第一の山が摩耗進行曲線の摩擦速度依存性より画かれることが判明した。 さらにCu/Feについて摩擦速度を10m/sにまでその範囲を拡大して摩耗進行曲線を求めたところ、約2m/sの速度以上では新たに第二のシビアー摩耗と云うべき高摩耗率の摩耗形態が摩擦初期に出現し、それまでシビアー摩耗と見做されていた摩耗形態が摩擦熱による表面酸化のため第二のマイルド摩耗と云うべき形態をとることが観察された。この第二のシビアー、マイルド摩耗は摩擦速度に対し第2の摩耗量の山を形成する。これらの事実より更に広範囲の摩擦速度における摩耗の速度特性が摩耗進行曲線の速度依存性によるであろうことが推察された。
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