本研究では、スロッシングを利用した制振装置(以下、スロッシングダンパーと呼ぶ。)の設計指針を得る事を目的として、理論的実験的研究を行った。まず、申請者が考案した「浅水波が容器に及ぼす流体力に関する計算手法」に基づいて、スロッシングダンパーを実際の構造物に受動型の制振装置として搭載した場合の制振性能に関する評価法を確立し、実験によってこの手法の妥当性を検証した。特に、浅水波理論で挙動が定式化できるような水深比0.1以下の水深が浅い場合について研究を行い、容器内部に金網などの抵抗要素を挿入することでスロッシングダンパーの動特性が著しく向上することを計算によって予測出来る手法を開発した。続いて、有限振幅波理論を基礎に、水深が浅水波理論では取り扱えない領域にまで深くなった場合についてスロッシングダンパーの制振性能を予測する事の可能な計算手法を開発し、実験によってその妥当性を検証した。さらに、強風による揺れのような小振幅入力時だけでなく、地震のような大振幅入力時にもスロッシングダンパーが有効に働く事を実験的に確認した。具体的には、初期振幅をさまざまに変えて、固有周期1秒の構造物(これは約100mの高さを持つ高層ビルに相当する。)にスロッシングダンパーを取り付けたときの減衰係数を自由振動波形から測定した。初期振幅が5cm以上になると、容器内に衝撃波のような波動が発生し、これが相対する壁面に衝突する事により大振幅の場合にも大きな減衰が得られる事が判明した。このように、大振幅入力時にもスロッシングダンパーが有効である事が実験によって発見されたが、研究期間中には制振性能に関する予測モデルの確立まで研究を進める事が出来なかった。これは今後の課題として研究を続行したい。
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