研究は、ほぼ当初の予定通り進められたが、本研究で得られた結果を要約すると以下の様になる。 [1]水面上単分子膜の光・変位電流変換機能に関する研究 単分子膜の光異性化にともなう光・変位電流変換を定量的に評価できるようなシステムに作り上げることができた。そして、単分子膜の光刺激による単分子膜内での分子の構造変化(例、シス-トランス光異性化)に伴う双極子の動的挙動が捉えられるようになった。また、当初の計画には無いが、液晶とアゾ系分子との混合膜で、変位電流を計測することにより、液晶とアゾ分子間の相互作用と変位電流の関係が明かにできる見通しを得た。 [2]固体基板上の有機単分子膜の光・変位電流変換および光記憶素子の開発 Air gap付きの金属/単分子膜/Air gap/金属構造の素子を作製し、電流計を通した閉回路にて、光刺激による単分子膜の構造変化に起因して双極子が動的に挙動することで発生する変位電流の検出を行ない、単分子膜の分極に関する研究を行なった。アゾ系分子のシス-トランスの光異性化に着目し、研究を実施し異性化に伴う変位電流の検出に成功した。さらに、当初計画しなかったが、偏光一変位電流変換という新しい変換システムに道が拓かれた。これにより、分子膜の面内配向も偏光変位電流により評価できる見通しが得られた。 [3]分子膜層間での電子移動の機構に関する研究 また、同様の構造の2層積層膜を用いたセルを試作し、層間の電子移動に基づく変位電流の検出を試み、その特性の定量評価(電子移動量など)を行い、分子膜の光・変位電流変換型の分子膜光記憶素子に関する基礎的な研究をすることができた。研究により、アクセプターとドナの順序を入替えた2分子積層膜形成により、変位電流の発生の方向が逆になることを見出した。
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