通常の推論はゴールが与えられてから開始される形態だが、ゴールが与えらえる以前に可能な推論を行ってしまおうという知識ベース・コンパイルによる新しい高速推論技術について研究を進めた。特に、有用な知識処理の枠組みであるが低い推論が大きな問題点であった仮説推論システムを具体的な対象にして研究を進め、成果を得た。 論理に基づく知識ベースのコンパイルは一般に冗長部分を捨てた主項(Prime Implicates)への展開となるが、知識ベースのすべてを主項に展開すると必要なメモリが膨大となり実用的でない。そこで、仮説推論システムにおいて推論速度の向上に有効な部分のみを抽出して、その部分のみを部分コンパイルする手法を考案、開発した。また、このようにして生成された知識をそのまま推論に用いると冗長な推論動作を招き非効率となる問題に対し、多段論理回路の最小化手法と類似の手法により、効率的な知識の集合に変形する手法を考案、開発した。このような知識ベースの変形(リフォメーション)により得た知識ベースを、我々の開発した最適解計算の仮説推論システムと結合して高速化の効果を実証した。 仮説推論の計算複雑度はNP完全であり、通常の意味での推論によったのでは指数的に増大する推論時間の壁を克服できない。この壁を克服する1手法として、本研究に先行して、論理表現の知識を線形不等式に変換して、0-1整数計画法の近似解法の適用により準最適解を多項式時間で求める手法を創案した。この手法は知識処理の観点からみると知識構造を利用した改善が図りにくい面があったが、本研究期間中に、知識をネットワーク化し、その状態を動的に変化させることで、同様に準最適解を多項式時間で求めるネットワーク化バブル伝播法と称する有用な手法を創案した。
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