本研究は、我々が以前から続けている細胞運動の機構を磁気的に調べる方法をさらに発展させたものである。その目的は、細胞内の食胞の運動が食胞の膜と周囲のタンパク質繊維との相互作用によるものである、という仮説を提案し、そのモデルを構成し、そのモデルにそった実験を行うことである。筋肉運動をはじめとする生物の運動の機構については、その素過程の機構が解明されておらず、我々の研究もこの解明にできるとし期待している。 原理自体は簡単である。細胞としてはハムスターの肺胞マクロファージを用いる。マクロファージには食作用があり、これに酸化鉄などの磁性粒子を与えると数時間のうちに細胞内に取り込まれ、細胞内では食胞と呼ばれる小器官中に存在する。これに外部から強力な磁界を与えると、粒子が磁化され、食胞が磁石になったのと同じこととなり、細胞から微弱な磁界が発生するようになる。これを細胞磁界と呼ぶことにするが、細胞磁界は時間とともに緩和する。緩和の原因は食胞がランダムな回転運動をするからである。したがって細胞磁界の変化を測定することは、食胞の運動の集合平均を測定していることに相当する。この運動を起こさせているのが筋肉運動と同様、アクチンやミオシンなどの運動性タンパク質の繊維の相互作用ではないかと考え、それを確かめるべく実験を続けてきた。現在のところアクチンが関わっているらしいという状況証拠がいくつか得られているが、実験結果には解釈の困難な点もある。 一方、タンパク質繊維と食胞の膜との相互作用により食胞のランダムな回転運動が起きる数理的なモデルを構成した。これにより、運動のもととなるエネルギーの発生と、逆に運動に対する粘性抵抗が発生することを示すことができる。
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