平成4年度の成果として、各建物についての写真や文献などの資料が収集できた。そこで、今年度はこれらをもとに、建物ごとのデータシートを作成して、建物の種類・形式、規模、様式、立地条件によって、建物の被害がどのように異なるかを分析した。また、いくつかの建物については、追加ヒヤリング調査を実施した。結果は、次のとおりである。建物形式と被害:寺院建築においては、全壊率は茅葺き、金属板葺きの順で大きくなっている。一方、神社建築においては茅葺きの被害が小さくなっている。建設年代と被害:社寺建築は、建設年代とはあまり関係なく被害は同程度であることが分かった。今回の調査に関する限り、明治以降の建物でも特に強くはなっていない。壁率と被害:総体的には、壁率と被害にあまり有意な差が認められなかった。沖積層厚さと被害:沖積平野の縁に当たる部分や沖積地が山間に入り込んだ沖積谷で被害が大きく、一方、山中の洪積層以前の地盤の地域では被害が小さい。また、腰越方面の社寺は、沖積平野上に立地しており被害が大きい。また、全壊率には、約80%で上限があることが分かった。木造家屋と社寺建築:家屋の全壊率と社寺の全壊は、概ね相関関係があることが分かった。特に、町村単位で見た寺院の被害は家屋の被害と同様な傾向を示した。 なお、調査によれば、鎌倉建長寺の仏殿と法堂は、規模・大きさ・架構形式がほとんど同じであるにも拘わらず、関東地震の際には、仏殿は完全に倒壊しているのに対して、法堂は軽微な被害に留まるという対照的な被害を示していることが分かった。
|