平成5年度の研究計画は、平成4年度までに得られた高齢者の聴覚機能の測定結果に基づき、高齢者の聴覚現象をシミュレートする装置を開発し、収集した環境音をこの装置で処理することにより、高齢者の聴覚を再現して主観評価実験を行い、高齢者に受容された環境音の変容の度合いを明らかにすることであった。 このうち、シミュレータ装置に関しては、ディジタルフィルタを利用して、平均的老人および、老人性難聴の聴覚特性をシミュレートすることが可能となった。これを用いて日常生活の中の種々の音を再生し、試聴を行った段階である。被験者を用いての主観評価実験は計画よりも遅れており、平成6年度に行う予定であり、定量的なとりまとめはそれから行うことになる。現段階でも次の知見を得ている。シミュレータを通して種々の音を再現した印象はまず、音量の低下であり、これにより多くの場合、音のニュアンスが聞き取れなくなっていることがわかった。これは特に音楽の聴取において顕著である。一方、警告音や呼出音などの音声情報伝達という面では、音の存在が知覚できるどうかという閾値との関連が問題となるが、警告音などでも高周波数を主成分とする音が多く、全く聴取できないものも多数あることが判明した。 平成4年度には、研究計画を拡張して、「残響が聴覚障害者の音声了解度に対する影響」を調べ、聴覚障害者に対しては、残響の影響が健聴者よりも顕著に現れることを示した。平成5年度は残響時間の他に直接音レベルもパラメータとして加えて、同様な文章了解度の実験をおこない、結果を得ている。現在、初期音/残響音エネルギー比で結果をまとめることを試みている。
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