高齢者の聴覚特性を配慮した建築空間の計画のための基礎資料を得ることを目的としていくかつの実験をおこなった。 平成4年度は、高齢者の聴力特性を近似するフィルターを作成し、そのフィルターを通して日常生活音を聞くことにより高齢者にとってこれらの音がどのように変化しているかを聴感上で確認した。70〜80歳台以上の高齢者の場合には生活音の大部分が聞き取り困難か聞き取れないものとなっている可能性もあることを示し、また、警告・予告音の多くが高周波数であるため高齢者には聞き取りにくいものであることを示した。 平成5年度は、残響時間を変えた4つの音場条件で、単音節語音、3音節単語、日常生活文、不自然な文の4つの試験音を用いて明瞭度・了解度試験をおこない、残響による音声情報伝達への影響は単音節語音、3音節単語の場合には明確に現れないが、文章了解度試験では比較的明瞭に現れることを示した。また、健聴者にとっては十分な了解度を維持できる残響条件が聴覚障害者にとっては聞き取りに困難を感ずるものとなる場合があることを示した。 平成6年度は、残響時間と初期音を操作した音場において、健聴者、高齢者、聴覚障害者に対して文章了解度試験をおこない、積分時間を100msとした初期エネルギー比と健聴者、高齢者、聴覚障害者の文章了解度とが非常に高い相関関係を示すことを明らかにした。健聴者にとっては文書了解度の低下をきたさないような残響条件でも、高齢者、聴覚障害者にとっては大幅な文章了解度の低下をもたらすことを示した。
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