研究概要 |
延性-脆性遷移温度(DBTT)が最も低いMo合金は米国で20年以上も前に開発されたTZM合金であるが,このTZM合金よりもDBTTがさらに低く,また再結晶温度が極めて高いMo合金を開発するために,合金組成(特にTiC濃度),メカニカルアロイング(MA)条件,鍛造,圧延等の加工条件を系統的に変えた合金を作成し,それらのDBTTと再結晶特性の評価を行った。DBTTについては,まず,静的試験よりもはるかに有用な衝撃試験による評価方法を確立し,それを用いて作製した合金のDBTTを評価した。その結果,測定したDBTTが-60℃と,TZM合金よりも約30℃も低いMo合金が得られた。しかもこの合金の衝撃強度はTZM合金よりもかなり高い。したがって,目標とする高靭性Mo合金の開発はほぼ達成されたことになる。一方,再結晶特性については,1000〜2000℃までの各温度で1時間真空焼鈍した合金の組織とビッカース微小硬さを焼鈍温度の関数として調べた。その結果,再結晶特性は合金組成に強く依存し,添加炭加物の量の増加と共に上昇したが,圧延可能な合金の中で再結晶温度約2000℃のものが得られた。ちなみに,TZM合金の再結晶温度は約1400℃,これまで報告されたMo合金の中で最も高い再結晶温度が約1700℃であるから,本研究で得られたMo合金の再結晶温度はそれらよりもかなり高く,特筆すべきものであろう。また,これらの合金の結晶粒は再結晶後もかなり微細であるのが特徴である。現在,以上の成果を論文として取りまとめ中である。また,核融合炉の中で最も過酷な環境に晒されるプラズマ対向機器用材料としての可能性を調査するために,研究用原子炉で中性子照射実験を行っている。
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