この研究は、光を透過する結晶中にき裂があると、そのき裂面で光を全反射させることができることを利用して、き裂の伝播速度を精度よく測定し、固体の破壊機構の解明に役立てようとする目的のものである。高速応答する光学測定の方法はすでに確立しており、この科学研究補助金によって、光学系をマルチ・チャンネル化し、進行中のき裂の形状の変化をも同時観察することを計画した。したがって、研究計画の初年度である今年度は、レーザーからの平行ビームを細長い数本のビームに分割して、各々の光量変化を同時計測する光学系の製作を行い、マルチ・チャンネル・ウェーブメモリーと合わせて、4チャンネルから8チャンネルへと拡張を進めてきた。狭い空間に周波数の高い受光素子と増幅器を組込むために、それら相互間の干渉を除くのに苦心を要したが、現在4チャンネル測定まで所期の精度の計測を達成しており、8チャンネル計測のテストと改良を進めている。NaCl結晶を試料とする4チャンネル測定によって明らかとなったき裂進展の挙動は以下のとうりである。き裂が進展を開始するときは、試料中心部から先行し、両端部の表面に近い部分の割れが追隨する形となる。この時、き裂の最高速度は数100m/secに達する。数10μsecの後にき裂の速度は急激に低下し、それとともに中心部を両端部が交互にスピードを担うようになる。この測定結果は、今年4月の日本金属学会に発表する予定である。
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