鉄基非晶質合金溶射皮膜の形成を目的として遷移金属であるCr、Moを含有する鉄基合金に炭素及びホウ素を単独または複合添加した合金粉末をガスアトマイズ法で製造し、減圧プラズマ溶射機を用いて皮膜を作製した。非晶質皮膜の得られたものについて皮膜硬度測定及びアノード分極曲線の測定を行い、耐摩耗・耐食溶射皮膜としての可能性を調べた。さらに焼戻しによる結晶化過程と皮膜特性の変化を明らかにした。 作製したすべての合金で非晶質溶射皮膜が得られた。結晶化温度は高Mo合金では約700℃、低Mo合金では約600℃であった。溶射したまゝの非晶質皮膜の硬度はHv800〜1100の高硬度を示し、結晶化直後ではHv1400となった。4wt%Cを含む高Cr高Mo鉄基合金では1000℃の焼戻し後も約Hv1400を保持しており、高温耐摩耗皮膜としての可能性が期待される。一般にCr、Mo量が多いほど、高温焼戻し後の硬度が高く、ホウ素含有量を増して炭素含有量が低下すると、800℃以上での焼戻し後の硬度低下が著しい。組織観察の結果、高温焼戻し後も高硬度を維持する理由として、高質相である炭化物、ホウ化物及び炭ホウ化物が非常に微細であり、しかも粗大化し難いことが分かった。 10Cr-10Mo合金についてアノード分極曲線を測定した結果、ホウ素含有量の多い方が、腐食電流が流れ始める腐食電位は低く、臨界電流密度、不動態保持電流は高くなった。すなわちホウ素量の増加により耐食性が悪くなるといえる。10Cr-10Mo高炭素合金の非晶質溶射皮膜はステンレス合金SUS316L溶射皮膜より優れていた。
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