高温耐摩耗性が期待される結晶化温度の高いFe-17Cr-38Mo-4C非晶質合金および耐食性に優れたFe-10Cr-2C-8P非晶質合金の非晶質溶射皮膜としての応用を目的としてこれらの合金粉末をガスアトマイズ法で製造し、減圧プラズマ溶射法あるいは高速ガス溶射法(HVOF)により皮膜を作製した。得られた皮膜の硬度測定およびアノード分極曲線の測定を行い、耐摩耗・耐食溶射皮膜としての可能性を調べた。さらに焼戻しによる結晶化過程と皮膜特性の変化を明らかにした。 Fe-17Cr-38Mo-4C合金においては、減圧プラズマ溶射法により完全な非晶質溶射皮膜が得られた。結晶化温度は約650℃であった。溶射したまゝの皮膜の硬度は1000DPNを超える高硬度を示し、結晶化直後では1450DPNを示した。また、1000℃の焼戻し後も1300DPN以上の硬度を保持し、高温耐摩耗皮膜としての可能性を示した。高温焼戻し後も高硬度を維持する理由として、硬質相である炭化物が非常に微細で粗大化し難く、さらにかなり硬質なx相が母相として析出しているためであることが分かった。アノード分極曲線を測定した結果、SUS316L溶射皮膜より容易に不動態化するが、不動態皮膜は不安定であることが分かった。 Fe-10Cr-2C-8P合金においては、減圧プラズマ溶射法および高速ガス溶射法により完全な非晶質溶射皮膜が得られた。溶射したまゝの皮膜の硬度は700DPNの硬度を示し、結晶化直後では1000DPNを示した。溶射まゝのアノード分極曲線は、臨界電流密度および不動態電流密度はかなり低い値を示し、SUS316L溶射皮膜よりかなり耐食性が優れていることが分かった。焼戻しによる結晶化にともなって耐食性は劣化することが分かったが、結晶化後もSUS316L溶射皮膜より耐食性は優れており、耐食溶射皮膜としての可能性を示した。
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