(1)ベイナイト変態…まず、0.4C-3Mo鋼に関して調べ、次いで0.4C-3Ni鋼に関して調べた。前者においては、引張応力は明瞭に変態を促進させたが、圧縮応力は変態を促進するようであったが、その効果は小さく明瞭な結論は得られなかった。比較のためのオーステナイト→フェライト変態に関しても調べたが、ベイナイト変態の場合と同様な結果が得られた。ただし、この場合、引張応力の効果に対してクリープ変形の影響が入ってしまった可能性が考えられた。また、この鋼では炭化物の析出が生じ、炭化物の共存下でしか応力の効果が調べられず、このことが結果に影響を及ぼしていることも考えられた。0.4C-3Ni鋼に関しては、引張応力、圧縮応力ともに変態を促進するが、引張応力のほうが効果が大きいことが分かった。また、引張応力と圧縮応力がどれだけBs点を上昇させるかは、Bs点を定義するベイナイト生成量に依存すること、Bs点の上昇量の比はベイナイト生成量によらずおよそ1.5となることが分かった。さらに、ベイナイト変態に対しては応力は核生成のみならず成長(発展)にも影響を及ぼすことも分かった。 (2)マルテンサイト変態…ベイナイト変態とマルテンサイト変態に及ぼす応力の影響を比較するため、またマルテンサイト変態に及ぼす応力の効果に関するよく知られたPatelとCohenの実験値と比較するため、Fe-20Ni鋼とFe-30Ni鋼を用いて実験を行った。その結果、引張応力、圧縮応力ともに変態点を上げるが、前者の効果の方が大きいとうPatelとCohenと同様な結果が得られた。しかしMs点に及ぼす影響の大きさは彼らの値と異なり、マルテンサイトの組織すなわちラス状かレンズ状か、また炭素量の多少によってMs点に及ぼす弾性限内応力の影響が異なることを示唆する結果が得られた。
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