おもに電気抵抗測定により連続冷却中の変態挙動とくに変態開始に及ぼす弾性応力の影響を調べた.応力のかけ方は前年と同様、両てこ式クリープ試験機を用いた.主な結果は以下のようであった. (1)マルテンサイト変態---Fe-20Ni鋼では、引張応力により変態が促進された.Ms点の上昇の程度はPatelらの結果に近かった.圧縮応力の効果は認められなかった.0.4C-4Ni-0.25Mo鋼では、引張応力もMs点に及ぼす効果は小さく殆ど認められなかった.通常、少なくても弾性引張応力はMs点を上昇させるとされている.何故、応力の効果が認められなかったかということに関しては、現在のところ明かでないが、この鋼の場合、冷却時Mo炭化物が析出する可能性が考えられる.今後、その影響を含めさらに詳しく調べる必要がある. (2)オーステナイト→フェライト変態---0.1C-5Ni鋼を用いた.弾性引張・圧縮応力とも影響は小さかった.降伏点をわずか越えた応力の影響も含めてみると、引張応力はわずか変態を促進、圧縮応力はわずか抑制するようである. (3)ベイナイト変態---0.4C-2Mo鋼では、組織観察による変態挙動の観察により引張応力は変態を促進するが、圧縮応力の影響はほとんど認められなかった.0.01C-3Mn-1Cr-0.0016B鋼ではBs点に及ぼす応力の影響は非常に小さかった.この鋼の場合、ベイナイト変態が試験片表面から発生し、内部に進行する傾向が強かった.このことと、応力の影響が小さかったことと関係があるのかも知れない.
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