血液脳関門における高分子ペプチド輸送系を解析するモデル化合物として、トランスフェリンに対するモノクロナール抗体を用いて検討を加えた。この抗体の血液脳関門透過性をin situ脳灌流法、in vitro単離および培養脳毛細血管内皮細胞系により測定した。その結果、この輸送は、受容体介在性内在化に対する阻害剤存在下で低下し、また温度効果等も観察された。これらの結果は、いずれも受容体介在性の内在化経路の存在を示唆しており、本抗体と、中枢移行性の改善を期待するペプチドの結合体を作成することにより、脳内移行性の改善が図られる可能性が示唆された。 また、中枢神経系の生理解剖学的知見に基づいた薬物速度論モデルを構築することに成功した。このモデルには、血液、脳脊髄液、脳細胞外液間の物質交換が考慮されており、ペプチドは、脳細胞外液中をフィックの拡散則に従う挙動をとることが仮定されている。このモデルに、生理解剖学的パラメーター(脳脊髄液の容積、産生速度、脳室上衣表面積)、リガンド固有のパラメーター値(血液脳関門透過性、血液脳脊髄液関門透過性、脳細胞外液中拡散性)を組み込むことにより、ペプチドを静脈内投与した後の、中枢神経系内における濃度推移を予測することが可能となった。また、理論計算の結果、血液脳脊髄液関門を介した血液から脳脊髄液へのリガンド流入を考慮にいれると、考慮しない場合に比べて、脳細胞外液中濃度も大幅に亢進する場合があることが示された。この結果は、血液脳脊髄液関門を介した中枢移行を工夫することによっても、脳へのリガンド移行を改善することができることを示している。 以上、血液脳関門、血液脳脊髄液関門を介したペプチド輸送特性に基づき、その中枢内分布機構を明らかとすることに成功し、本年度の目的を達成することができた。
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