[1]高分子ペプチド輸送系の解析:血液脳関門における高分子ペプチド輸送系を解析するモデル化合物として、トランスフェリンに対するモノクローナル抗体を用いて検討を加えた。この抗体の血液脳関門透過性をin situ脳灌流法、in vitro単離及び培養脳毛細血管内皮細胞系により測定したところ、受容体介在性の内在化経路の存在が示唆された。よって本抗体と中枢移行性の改善を期待するペプチドの複合体を作成することにより、脳内移行性の改善が図られる可能性が示唆された。 [2]低分子水溶性リガンド輸送系の解析:モデル化合物としてキノロン系抗生物質[^<14>C]フレロキサシン、核酸系化合物([^3H]アジドチミジン、[^3H]デオキシイノシン)を用いて検討を加えた。キノロン系化合物に対しては、血液脳脊髄液関門において中枢から血液へとくみ出される可能性が示唆されているのに対し、核酸系化合物に対してはこの関門において血液から中枢への取り込み機構が存在する可能性が示唆されているため、両化合物は本研究を進める上で良好な対照化合物となる。各リガンドのこれらの関門における輸送系を、in vivo系(静脈内及び脳室内投与後の血中及び脳中薬物濃度の経時変化を解析する)、in vitro単離脈絡叢を用いた輸送実験を行い、両関門における輸送系のcharacterization、輸送能力の定量化を行った。その結果、ニューキノロン系化合物の脈絡叢を介したくみ出しには、輸送担体の関与する能動輸送が働いていること、この輸送担体はこれまで申請者らが研究してきたベンジルペニシリン(有機アニオン系化合物)に対する担体と同一であることを明らかにした。また、核酸系化合物のみならず、ニューキノロン系化合物も、脈絡叢を介して血液から脳室内に取り込まれることが明らかとなった。 [3]各関門における挙動に基づく、in vivo静脈内投与後の脳内濃度の予測:上述の実験により得られた結果を、申請者らが開発した、中枢神経系を記述する生理学的薬物速度論モデルに組み込み解析を行った。このモデルに従い、リガンドの各関門における輸送特性や、脳実質内の拡散特性を組み込むことにより、in vivoでラットに静脈内投与後の中枢神経系内薬物分布を予測することができた。また、脳室内に投与後の脳脊髄液中及び脳実質内の薬物濃度推移も予測することが可能になった。
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