本研究の目的は、南極ボストークで掘削された深層コア氷を用いて、その中に含まれるクラスレート水和物の構造と生成過程を明らかにすることにある。本研究で得られた成果を要約すると以下の通りである。 (1)極地氷床におけるクラスレート水和物の生成過程の全体像を明かにした。静水圧下で、気泡がクラスレート水和物に変化する過程を実験室で再現することに成功し、実際の氷床で気泡からの遷移に数千年から数万年もの長期間を要しているのは、クラスレート水和物の核生成の困難さに原因があることを明らかにした。 (2)クラスレート水和物の平均体積が、氷床の表面温度に強く依存することを明かにし、これが新たな温度指標になり得ることを示した。 (3)クラスレート水和物の成長過程で、空気組成気体がその気体分子の大きさによって、弁別されることが間接的に示された。しかし、実際の成分気体の分布を明かにするには至らなかった。 (4)氷期の終りの最寒冷期に対応するクラウディバンドが、クラスレート水和物の微結晶から成ることおよび微結晶の分布が短期的に変動していることを明かにした。しかし、その原因については、今後の課題として残った。 (5)X線回折によってクラスレート水和物の分布を効率的に測定する方法を開発した。これによって、上記(4)の微結晶の分布も調べられるようになった。 以上の結果、所期の目的はほぼ達成されたが、まだ氷床中の空気組成気体の挙動を定量的に記述するレベルには達していない。これは、氷中の気体の拡散係数が極めて小さいために測定が困難なことと氷床コア中の気体の分布を精度良く測定することの困難さに起因しており、今後の課題である。
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