当該年度は、放射伝熱による焼き加熱において、熱源からの放射伝熱量及び熱源の放射波長特性が食品の仕上り状態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に研究を行ない、下記の新知見を得た。 1.赤外線の波長の違いが食品の仕上り状態に及ぼす影響 食品が受ける放射伝熱量を一定にし、ヒータの放射する赤外線の波長と食品の赤外線の吸収特性の関係が、食品のクラスト層の形成及び着色状態に及ぼす影響について検討した。その結果、以下の事が明らかになった。ヒータの放射する赤外線の波長の違いは、クラスト層の形成に影響を及ぼす。可視光領域、近赤外線領域に放射ピークのあるヒータが放射する短波長領域の赤外線は、食品への浸透度が大きいため、表面温度の上昇速度が遅い反面、内部温度の上昇が早い。そのため形成されるクラスト層の水分含量は高い。一方、遠赤外線領域に放射ピークのあるヒータが放射する長波長領域の赤外線は、食パンの表面層で吸収されやすいため、表面温度の上昇速度が早い反面、内部の温度上昇速度が遅い。そのため、形成されるクラスト層の水分含量は低い。食品の着色度は、長波長領域の赤外線を放射するヒータほど早い。ヒータの放射する赤外線の波長は食品表面の温度に影響を及ぼし、着色度はこの表面温度により決定されることがわかった。 2.赤外線の波長及び放射伝熱量の違いが食品の仕上り状態に及ぼす影響 ヒータへの電気入力を一定にして検討を行った。その結果、ヒータ入力が同じ場合でも、ヒータの放射特性の違いによって食品が受ける伝熱量が異なることがわかった。クラスト層の形成及び着色状態は、この放射伝熱量の違い及び放射波長特性の違いの両要因の影響を同時に受けたが、特にクラスト層の水分含量には、波長の影響が強く現われることがわかった。
|