ヒータの放射特性の違いにより異なる放射伝熱量および赤外線の波長が食品の仕上がりの状態に及ぼす影響を明らかにするため、食品が受ける放射伝熱量およびヒータ入力を一定にして食品を加熱した結果、下記の新知見を得た。 (1)食品が受ける放射伝熱量が一定の場合でも、可視光領域、近赤外線領域に放射ピークのあるヒータが放射する短波長領域の赤外線は、食品への浸透度が大きいため表面の温度上昇は遅く、内部では速い。このためクラスト層の水分含量は高い。遠赤外線領域に放射ピークのあるヒータが放射する長波長領域の赤外線は食パン表面で吸収されやすいため、表面温度の上昇は速いが、内部では遅い。このためクラスト層の水分含量は低い。食品の着色度は長波長領域の赤外線を放射するヒータほど速く、表面温度により決定されることがわかった。 (2)ヒータ入力が同じ場合でも、ヒータの放射特性の違いによって食品が受ける放射伝熱量は異なった。放射伝熱量は、近赤外線を多く放射するヒータほど大きく、最大約25%の違いが認められた。ヒータの放射する赤外線の波長および放射伝熱量が異なると、クラスト層の形成状態および着色状態は異なった。試料の水分蒸発率、クラスト層の厚さおよび着色状態には、ヒータの放射する赤外線の波長と放射伝熱量の両要因が同時に影響を及ぼすが、それぞれの影響の大きさは放射特性の違いによって異なった。またクラスト層の水分含量は、ヒータの放射する赤外線の波長の影響を大きく受けた。この結果から、ヒータを熱源とした加熱調理機器においては、熱源への入力によってその加熱能を決定できないことがわかった。 以上の結果は、放射伝熱を利用した焼き加熱における食品へのインプットとそのアウトプットの関係を具体的なデータに基づいて実証したものであり、調理加工における加熱制御の可能性を示す有用な知見である。
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