水面上の不溶性単分子膜は、界面活性物質の存在状態の最も基本的なものであり、その研究は界面活性物質の性質を理解する最も基礎的なものになる。この不溶性単分子膜に関する研究には70年を上回る歴史があるが、それにもかかわらず多くの基本的な問題が未解決のまま残されていた。ここに進行中の研究は、これらの未解決の問題の解明のために計画されたもので、これまでにない精度で不溶性単分子膜の温度、圧力の制御のできる装置の開発と、いくつかの新しい観測装置(ブリュースター角顕微鏡、高感度瞬間マルチ測光システム、原子間力顕微鏡)の組み合わせにより、水面上の単分子膜を直接観察し、その構造をさぐることを目的にしている。平成4年度は、マイクロコンピュータで制御し、圧縮歪み速度を一定に保って(観測時間を一定に保って)単分子膜を圧縮でき、しかも単分子膜を展開している水面温度を、大量のペルチエ素子を用いて純電子的に精密制御できる装置を開発した。市販の装置では、単分子膜を展開するLangmuir水槽は内面がテフロンコーティングしてあり、下層水の深さが20-30mmあるが、今回開発した装置の水槽は、底板に白金の薄板を用いており、下層水の深さを2mm程度にしてあり、下層水の熱伝導が速いため対流が抑えられ、ブリュースター角顕微鏡による単分子膜の直接観察が容易になった。この装置を用いて、ベヘン酸からミリスチン酸までの一連の長鎖脂肪酸単分子膜を光学顕微鏡のカバーガラス上に1層移行させ、原子間力顕微鏡で観察したところ、いわゆる「崩壊膜」では3次元構造が、鎖長、温度、観測時間の変化とともに系統的に変化すること、いわゆる「固体膜」領域でも、時間とともに部分崩壊が起こり、ナノメターオーダーの3次元構造が発生することが確かめられた。これは3次元結晶の結晶核に相当するものである。これらの結果を日本化学会の春の年会で報告する。
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