研究概要 |
水面上の不溶性単分子膜は、両親媒性界面活性物質の存在状態としての一種の極限状態であり、界面活性物質の物性測定の最も基本的な研究対象であるのみならず、機能性有機超薄膜として注目をあつめている、LB膜の素材としても重要な研究対象であり、この膜を近代科学の対象として研究を始めたAdam,Langmuir,Harkinsから数えれば約70年を上回る研究の歴史がある。しかし、単分子膜の構造を近代的な機器を用いて詳細に研究することは対象物質があまりにも微量であること、あまりにも薄膜であること等の理由により、つい最近までほとんど不可能であった。1991年にドイツとフランスで新しい原理の単分子膜観察装置の開発が報告された、それがブリュースター角顕微鏡である。本研究でもこれを独自に開発し、各種条件下での単分子膜のin situ観察が可能になった。これによって、相転移時における2相共存構造、下層水中の金属イオンの膜構造に対する効果、温度圧力変化に対する膜構造変化等を、in situで観察し、CCDカメラを通してビデオに記録し、プリントして検討することが可能になった。ブリュスター顕微鏡は、単分子膜研究において非常に有効な、画期的装置であることが確認された。また、本助成金で購入された瞬間マルチ測光システムは、非常に高感度であり、水面上の単分子膜1層の電子スペクトル測定が可能である。これを用いて、水面上のジアセチレン長鎖誘導体単分子膜の紫外線重合を追跡することができた。さらに、色素長鎖誘導体の単分子膜の圧縮に伴うスペクトル変化も記録することができた。さらに、世界で最高の温度制御能力を有するLangmuir水槽を開発した。この装置はマイクロコンピュータで制御して、水層表面温度、つまり単分子膜温度を時間の関数として変化できるという、世界でも最先端の性能を有する。これを駆使していくつかの単分子物質のA-T等圧線を測定したところ、温度が上昇すると単分子膜が収縮する、珍しい相転移を見いだすことができた。
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