研究概要 |
不斉配位子(1R,2R,3S,4S)-3-[(1-(メチル-2-ピロリル)メチルアミノ]-1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-オールを80%とそのエナンチオマーを20%の割合で混合し、60%の光学純度の配位子を調製した。これにトルエン中、ヨウ化銅(I)とメチルリチウムを用いてアルコキシジメチル銅錯体を合成し、(E)-2-シクロペンタデセノンとの共役付加を行なったところ、(R)-ムスコンが76%e.e.で得られることを見いだした。これは不斉共役付加における初めての不斉増幅現象である。この不斉増幅現象は、アルコキシジメチル銅錯体が溶液中でホモキラル二量体とヘテロキラル二量体を形成するものと仮定すると合理的に説明することができる。すなわち、ヘテロキラル二量体は溶液中では安定で反応性も低いが、C_2対称を有するホモキラル二量体は高エナンチオ選択性を有し、反応性が大きいために不斉増幅が生じたものと考えられる。 つぎに、10員環から18員環エノンとアルコキシジメチル銅錯体との共役付加反応を行った。その結果、(Z)-エノンからは(S)-体のケトンが得られ、(E)-エノンからは(R)-体のケトンが選択的に得られることを見いだした。すなわちエノンの立体配置に関係なく一方方向からメチル基が導入されていることが明らかとなった。この立体選択性はアルコキシジメチル銅錯体がエノンの酸素原子と配位することにより発現されたものと考えられる。 以上の結果から、不斉配位子、ヨウ化銅(I)、メチルリチウムから調製したアルコキシ銅錯体はモノメチル銅錯体を経由してアルコキシジメチル銅錯体となり、これは二量体と平衡にあること、高エナンチオ選択性を示す活性種はアルコキシジメチル銅錯体であり、これはエノンと反応して光学活性ケトンを生成し、モノメチル銅錯体となることを明らかにした。
|