キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)の分離用緩衝液にイオン性界面活性剤ミセルを添加して行うミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)は、電気的に中性な物質をもCZEにより分離可能とした方法である。MEKCでは、試料分子のミセルと水との間への分配係数の違いに基づいて分離を行うので、多環式芳香族化合物(PAH)のように疎水性が強くミセルに取り込まれ易い化合物の分離は、普通のMEKCでは困難である。イオン性ミセル溶液にシクロデキストリン(CD)を添加して行うシクロデキストリン修飾ミセル動電クロマトグラフィー(CD-MEKC)では、CDは電気的に中性でありミセルには取り込まれないので、CDの添加により、PAHのような疎水性化合物も見掛け上水相への溶解度が増加して分離可能となる。 20mMγ-CD、5M尿素を含む100mM硫酸ドデシルナトリウム溶液(pH9.0)を、内径50μm、長さ80cm(有効長60cm)のキャピラリーに満たして、印加電圧25kVで電気泳動を行い、約50分で主要汚染物質に指定されたPAH16種の分離ができた。この条件では、フルオランテンとベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[k]フルオランテンとジベンゾ[a、h]アントラセンの2組の分離ができなかった。γ-CDの代わりにβ-CDを用いると大きさの小さいPAH8種(3環式までの全部と4環式2種)は容易に分離できたが、大きいPAH(4環式2種と5環式以上)はほとんど分離できなかった。しかし、γ-CDでうまく分離しなかった2組はβ-CDを用いると分離できた。 マイクロエマルジョンを用いる分離は、現在動電クロマトグラフィーに使用できる安定なマイクロエマルジョンの組成を探索中であり、PAHの分離にまだ成功していない。 PAHの分離条件の検討については、ほぼ予定通り研究が進行したので、次年度は予定通り研究を進めることができ、生体試料中のPAHの分析を行う予定である。
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