研究概要 |
ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)はキャピラリー電気泳動(CE)の分離モードの1つであり,泳動液にイオン性ミセルを加えて,溶質のミセルへの分配係数の違いに基づいて,電気的に中性な物質をも電気泳動により分離できるようにした方法であり,CEの分離対象を著しく拡大した.CEは高性能分離法でありまた超微量分離分析法でもあるので,試料量の限定される生体試料分析に適した方法と言える.本研究課題の多環式芳香族化合物(PAH)は中性物質であるので,そのCE分離にはMEKCを用いることが必須である.しかし,PAH疎水生の高い化合物なので分配係数が大きくなり過ぎ,単なるMEKCではうまく分離できない.一方,血液中ではPAHはリポタンパク質に取り込まれた形で存在すると考えられるので,リポタンパク質を分離を含め,できるだけ簡易な操作でMEKC分離を可能にする必要がある. 本研究では,まずMEKCによるPAHの分離法を確立し,次にリポタンパク質中のPAHの分析条件を検討することを目的とした.PAHの分離法としては,硫酸ドデシルナトリウム(SDS)ミセル溶液にシクロデキストリン(CD)を添加して行うCD-MEKCの他に,ミセルの代わりにマイクロエマルジョンを用いるマイクロエマルジョン動電クロマトグラフィー,有機溶媒をミセル溶液に添加するMEKCについても検討した.主要汚染物質に指定されている16種のPAHを分離するのには,gamma-CDを用いるCD-MEKCが最も優れていた.PAHを添加したリポタンパク質をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し,CD-MEKC分離系に直接導入することによりPAHの分離が可能なことを明らかにした. 血液中に含まれているPAHの濃度は,本研究で用いた濃度よりもかなり低いと予想されれので,今後は高感度検出法の開発が必要である.
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