研究概要 |
1)本研究対象である二核化配位子(L)は,環状部分にメチル基をもっている。このメチル基の影響を調べることを主たる目的として置換基の無い類似の双環状二核化配位子α,α-Bis(1,4,8,11-tetraaza-cyclotetradecane-6-yl)-p-xylene(L')を新たに合成した。そのNi(II)錯体[Ni_2(L')](ClO_4)_2を合成し単結晶X線解析を行ったところ,二つのサイクラム骨格を連結しているキシリレン基は,立体化学的安定性から予想されるとうり,椅子型6員キレート環に対してエカトリアル配置をとっていることが解った。表題の双環状二核化配位子(L)を含む錯体[Ni_2X_3(L)]^+(X=Cl^-,Br^-)および[Zn_2(CO_3)(L)]^<2+>においては,この部分の立体化学が異なりキシリレン基がアクシアル配座をとっているが,これはサイクラム環上のメチル基の存在に基づくことが実験的に明らかとなった。表題の配位子(L)を含む錯体においては,二つのサイクラム骨格がface-to-face状に配列し金属間距離は5.4-5.8Aに保たれているが,このような立体化学は,当初の研究のねらいどうり上記メチル基の存在によってもたらされていることが明らかとなった。 2)昨年度合成に成功した[Ni_2Cl_2(L)](ClO_4)_2は,X線解析の結果,--C-Ni-Cl-Ni Cl---型の一次元鎖状構造をもつこと,また,架橋塩素のひとつにdisorderがあるため一次元構造は疑似的なものであり鎖状構造の繰り返しユニットは二核化配位子錯体の塩素架橋二量体とみなせることが解った。磁化率の温度変化の実験を行い,平均的な磁気的挙動をHeisenberg-Van Vleckモデルを用いNi間に二種類の磁気的交換相互作用を仮定して解析した。最適パラメータとして,J=-48.2(3)cm^<-1>,J=-11.2(3)cm^<-1>,g=1.973(2)を得た。 3)表題の双環状二核化配位子(L)を大量に合成し,昨年度から研究を継続しているNi(II)やZn(II)錯体に加え,新たにCo(III),Ni(III),Cd(II),Ru(II),Ru(III)などの遷移金属イオンを含む複核錯体の合成を行った。これらの新化合物については,構造や性質のキャラクタリゼーションが進行中である。
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