研究概要 |
シスプラチン類縁錯体として、昨年度のホスフィン系に引き続き、アルシン系とスチビン系水溶性錯体の開拓を行った。cis-[Pt(AsMe_3)_2(NO_3)_2〕の水溶液をOH型陰イオン交換樹脂に通し、水溶液を濃縮するとジヒドロキソ錯体cis-〔Pt(AsMe_3)_2(OH)_2〕・5H_2Oが白色粉末として得られる。ジクロロメタンからの再結晶によりX線結晶構造解析に使用可能な単結晶を得ることができた。この例は二価白金ジヒドロキソ化合物としては初の構造決定である。同様にcis-〔Pt(SbMe_3)_2(NO_3)_2〕の水溶液をOH型陰イオン交換樹脂に通すと、ジヒドロキソ種が得られるが、分解しやすいため化学種の同定は溶液中での^1H,^<13>CNMRのみで行った。アルシン系、スチビン系錯体は互いに類似の水溶液内平衡を示す。 上記のような溶存平衡はNMRによる観測により確認されたが、スチビン系はホスフィン系やアルシン系に比べ錯体種の熱安定性が低く、現在までのところ〔Pt(SbMe_3)_2(ox)〕,〔Pt(SbMe_3)_4〕(NO_3)_2等の化合物が単離されたにすぎない。 いずれにしても昨年度から今年度にわたる継続努力により、シスプラチン類縁体として、PMe3,AsMe3,SbMe3等の15族元素をドナーとする白金水溶性錯体の開拓にほぼ成功し、次段階として溶液内での生体分子との反応を探査するまでに錯体系を発展させることができた。
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