研究概要 |
プロトン移動を外部信号とするスイッチング機能を有する超分子系を合成するために,新しい金属多核錯体の分子設計とその分子配列の制御に関する基礎的知見を得ることを目的とした。ルテニウム錯体を基本骨格とする超分子錯体系として,RuあるいはRhイオンを,架橋配位子としてはプロトン移動可能なベンズイミダゾールユニットを用いて,二核錯体を合成した。これらの錯体は,金属イオンのレドックス活性の有無および架橋配位子上の解離可能なプロトン数により新しい3つのタイプに分類できた(下図)。 タイプ1は二個の金属イオンがレドックス活性で架橋配位子上に解離可能な二個のプロトンを持つ。タイプ2は解離可能に二個のプロトンを持つが,一個の金属イオンがレドックス不活性である。タイプ3は二個のレドックス活性な金属イオンを持つが,解離可能なプロトンを一個しか持たない錯体である。これらの錯体は分子内での電子移動や酸化電位のpH依存性などでまったく異なる挙動をすることが明らかになった。タイプ1ではプロトン移動による電子移動の制御が可能であり,タイプ2ではプロトン移動にるる蛍光スイッチが観測された。タイプ3では一段の2電子移動反応がプロトン移動により段階的な1電子移動に変化した。このように,プロトン移動と電子移動が共役したような系ではプロトン解離により酸化電位を制御できるとともに,逆に溶液のプロトン濃度により錯体の平衡状態を変化させ,その電子状態をコントロールすることも可能であることがわかった。
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