本年度の研究成果の概要は以下に記す三つに大別される。 1)既設のESR装置のコンピューター化のために、新しい分光器コンソール(日本電子社製、JES-RE-SP)およびマイクロコンピューターシステムを導入し、データ読み込み用ソフトおよびインターフエイスを制作した。これによりESR測定およびESR-光吸収同時測定 (ESRET)が従来にくらべて著しく容易かつ正確に行えるようになり研究が一段と進展した。 2)大腸菌、好中球および脱窒菌内の金属含有酵素の構造およびその機能を研究するため、培地の検討、変異細胞の育成を行い、これらの試料を用いて極低温でESR測定を行った。その結果、ESRスペクトルに現れる数種の信号の内、Fe-SOD、Fe_3S_4クラスター、Fe_4S_4クラスターのシグナルの検出および同定に成功した。現在その成果をもとにして、基質特異性の影響や阻害剤の効果などについて、詳しい研究を続けている。 3)細胞内金属酵素の構造および機能のESRによる詳しい解明には、戸め構造について情報の得られているモデル錯体を用いての研究が有用である。現在、鉄およびマンガンの錯体について、種々のリガンドを配位させたモデル錯体について、とくに配位環境のESRパラメーターに及ぼす影響を中心に詳しい研究を行って興味ある知見を得つつある。また、酵素モデル反応系における中間体の検出と同定を試み、Fe‐SOD、Fe‐カラユール錯体の系において中間体の構造について興味ある知見を得ている。
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