研究概要 |
配位反応と電子移動反応の解明に,予期した以上の新たな進展が認められたため,本年度は,特にこの2つの挙動に重点をおいて,可視スペクトル,NMR,ESRスペクトルによって検討を行った.その結果,従来単純な配位子交換反応と考えらられていた系においても,電子移動が決定的な役割を果たしていることが明かとなった.1.モリブデンポルフィリン-フェノール,チオフェノール系.遊離配位子から錯体の軸配位子へのプロトン移動が律速であり,軸配位子が解離した後,遊離配位子から錯体への電子移動が進行し,ラジカル対を形成する.立体障害が大きな場合あるいは配位子の配位能が小さな場合には反応はこの段階で停止し配位子由来のラジカルが遊離する.一方配位が可能な場合にはラジカル対の速やかな再結合によって配位反応が完結し,全体の反応は配位子交換反応と見なすことができる.2.ニオブポルフィリン-カテコール系.上記1と同様に,プロトン移動,電子移動,カテコールの配位が進行する.生成錯体において,ニオブに配位しているカテコールとオキソ配位子の間に形成される水素結合によって,オキソ配位子の活性化がおこり,さらに1分子のカテコールとオキソ配位子の交換が進行する.3.モリブデンポルフィリン-ヒドロキノン系.上記1と同様の過程で配位反応が進行した後さらに1分子の錯体がヒドロキノンに配位する.その段階で,分子内電子移動が進行し,還元錯体とベンゾキノンの配位平衡が認められ,電子移動と配位反応が同時に進行することが明らかになった.
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