今年度は、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)薄膜作製のためのコーテインダ液の調製、シリカガラス基板とマグネシア基板上への薄膜の製作を行った。ゾル溶液は、ジルコニウムnプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、酢酸鉛3水和物、イソプロパノール、ジエタノールアミンを混合溶解して得た。コーティングは、ディップコート法によって行い、乾燥後、400℃〜800℃で焼成した。また、溶液のみを焼成した場合について評価するため、ステンレスメッシュをディップコーティングした試料及びゾル溶液から作製した粉末についても解析した。解析は、X線、透過電顕を用いて行った。結果は以下の通りである。焼成温度を350℃から600℃に上げることにより、PZT膜の結晶化が促進されたが、アモルファス相からパイロクロア相が生成し、次いでペロブスカイト相が出現した。ペロブスカイト生成温度は、基板によって異なっており、マグネシア基板上では550℃、シリカガラス基板上では750℃からペロブスカイト相が出現した。また、X線でのパイロクロア相の同定は、シリカ基板上では650℃、マグネシア基板上では450℃で可能となった。しかし、HRTEMでは基板の種類に関わらず350℃の熱処理によって薄膜の結晶化が生じることが明らかになった。粉末の場合は、熱処理温度の上昇により、非晶質相から酸化鉛が現れ、さらなる加熱によりペロブスカイト相が現れた。マグネシア単結晶基板上に600℃1hの熱処理を行ったものの断面TEM観察では、基板と完全にエピタキシャルに成長したPZT結晶粒が出現した。この結果は本研究が目的とする単結晶膜の作製に直接的に関与するものである。多層コーティング膜の場合は、幅約0.1μmの柱状粒が各相を貫いて発達する様子が確認された。まとめると、本年度は、次年度の強誘電膜の単結晶化に向けて基礎データの十分な蓄積に成功した。
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