研究概要 |
本研究課題における実験は、大きく分けて2つの部分からなっている。一つはチタン酸バリウム半導体セラミックスの結晶粒界の形成過程を直接観察することであり、もう一つはそのような粒界における単一粒界の電子物性(抵抗率-温度特性における正の抵抗温度(PTCR)特性)を測定することである。結論から述べると、この研究課題は平成5年度の後半の実験において完全に遂行され、目標以上の成果を得ることができた。本研究課題は、これまで世界で全く行われたことのない研究であり、予備実験に多くの時間を要したが、初めて明らかになった実験事実も多くあり、今後半年の間に学術誌及び国際会議においてに報告していく予定である。本研究課題における研究実績は次のように纏められる。 1.試料出発粉体の調製:5Ωcm程度の室温抵抗率と10^4倍以上の抵抗率ジャンプ(PTCR効果)を示す低抵抗PTCR材料の作製が可能な材料組成を決定し、固相反応法により実際にそのような材料を得ることに成功した。 2.チタン酸バリウム半導体厚膜の形成と焼成:ドクターブレード法を用い、半導性チタン酸バリウム粉体厚膜(厚さ20〜50μm)を調製し、これを各種の(典型的には1350℃,30分)条件で焼成し、加熱顕微鏡装置または繰り返し焼成法を用いて、粒子の成長過程を観察した。これにより、結晶粒界の形成過程を詳しく観察することができた。またこの実験により、次の電子物性測定に用いる単一粒界を持つ試料の作製条件を決定することができた。 3.チタン酸バリウム半導体単一粒界の形成: 上記2の実験において決定された最適の焼成条件を用いて、幅50〜80μm,長さ4〜8mmに切り出したチタン酸バリウム半導体厚膜を同組成の粉体の上で焼成し、厚さ及び幅方向にただ一つの粒子しかない単一粒子(平均粒子径60μm以上)が直線状に焼結した試料を得た。 4.単一粒子内部及び単一粒界における抵抗率-温度特性の測定:顕微鏡の下で、ただ一つの粒界を挟んで隣り合う粒子にIn-Ga電極を塗布した試料、及びただ一つの粒子内にIn-Ga電極を塗布した試料の2種類の試料を数多く作製し、それらの抵抗率-温度特性を測定した。このような測定はこれまで全く行われたことがなく、本実験が最初の試みであり、この測定によりこれまで不明であったことがらを明らかにすることができた。即ち、チタン酸バリウム半導体の単一粒界におけるPTCR特性は、通常のセラミックスに見られるPTCR特性と同種のもの以外に、キュリー点において10^3倍以上の抵抗率ジャンプのみを示す非常に異なる形態を示すものもあり、PTCR効果はその発現機構としてこれまで長く受け入れられてきたHeywangモデルでは説明できないことが明らかにされた。また、粒子内に存在する双晶(ツイン)境界がPTCR効果を示すか否かについては全く知られていなかったが、小さいながらも明確にPTCR効果を示すことが本研究により初めて明らかにされた。
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