研究概要 |
有機ヘテロ元素化合物の化学は最近有機合成反応の分野で重要な役割を果たすようになってきている。一方、有機化合物に光学活性部位を付与する不斉合成反応はいまや有機合成において欠くことのできない手法である。本研究では、この手法を有機ヘテロ元素化合物中、セレン,テルル,硫黄の有機化学に効率よく導入する方法を開発することを検討した。その結果、セレンの化学においては従来光学活性有機セレノキシドの合成と単離というところまでで研究がとどまっていたが、本研究においてセレノキシド脱離という簡便なアルケン合成法に不斉手法を導入することに世界で初めて成功した。すなわち、有機セレニドをシャープレスやデービスの不斉酸化剤を用いて不斉酸化し、中間に存在する光学活性な有機セレノキシドを単離することなくセレノキシド脱離を行い、軸不斉を有するアレン(ee値42名)やシクロヘキシリデン(ee値83名)化合物を合成した。また、不斉アリルセレノキシドの[2,3]シグマトロピー不斉転写による光学活性アリルアルコールの簡便合成にも成功した。一方、テルルの化学においては不斉テルロキシド脱離反応の開発には至らなかったが、不斉テルロキシドの[2,3]シグマトロピー不斉転写に極く最近成功した。これは間接的ではあるが不斉テルロキシドの存在を世界で初めて証明した大きな成果である。一方、硫黄の化学においては、有機スルフィドの不斉酸化による非常に簡便で光学純度の高い不斉有機スルホキシドの合成に成功した。
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