低温プラズマは熱的作用によることなく高エネルギー電子との衝突を利用して分子を高度に活性化しうる手法として近年、急速に注目を集めている。酸素や窒素などの無機ガスをプラズマ化すると、従来の手法では生成が容易でない種々の高次励起種をはじめとするいわゆる超活性種を連続的かつ効率的に作り出すことができるが、これを有機合成反応に利用しようという試みは、ごく最近始まったばかりである。従来このような高エネルギー条件下での反応は選択的に乏しいという見方が一般的であったが、本研究はプラズマと液相との相互作用及びそれから誘起される溶液内反応を積極的に活用することにより活性種の反応性の制御を実現しようとするものである。本年度は酸素や窒素などの無機ガスからのプラズマ生成活性種を利用する有機反応を試みた。プラズマー液相反応に用いる溶媒としては二塩基酸エステルを中心に種々検討した結果、グルタル酸ジメチルが最も適切であることを見出した。芳香族アルケン及びアルキン類を含む溶液上に酸素プラズマを照射させるとすみやかに基質が酸化される。アルケンからの生成物はエポキシドが主で、ケトンが副生した。このときのエポキシドの立体選択性は保持されなかった。たとえばシスおよびトランスースチルベンからはともにシス体とトランス体のエポキシドの混合物が得られた。またアルキンからはケトンやアルデヒドなど多種類の酸化生成物がGC分析により検知されたが反応液をIRを用いて解析することによりケテンが一次生成物として得られていることが明らかになった。窒素プラズマを用いた場合には基質からの水素引抜が進行することが判明し、例えばベンズアルデヒドからはベンゼン、ビフェニルが生成した。一方有機基質中への窒素の導入は認められなかった。
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