今年度は、赤色色素アントシアニンを蓄積したイチゴ(Fragaria glandiflora)培養細胞に超音波を照射し、色素の放出挙動についての定量的な知見を得るとともに、細胞レベルで画像処理技術を応用することにより、各細胞ごとの色素の放出挙動について、統計的な解析を行うための手法を確立した。さらに、超音波による連続的透過処理に必要な条件を明らかにした。一方、この超音波による放出効果を規定する物理的あるいは化学的因子が何であるのかを定量的に評価し、超音波の作用メカニズムの一端を明らかにした。以下に主な結果を列記する。 (1)振盪フラスコによりイチゴ細胞を培養し、アントシアニンが細胞内に蓄積したところで、発振回路と圧電セラミックス(ピエゾ素子)により発生させた超音波を細胞に当て、色素を排出させた。その際の条件として、1MHz程度の高周波数の有効性および処理時間は1分程度で飽和すること、色素の安定性から氷温に近い温度がよいこと等を見い出した。 (2)超音波による透過処理効果がその物理的な作用(キャビテーション)に起因するのかあるいは化学的な作用(副生する酸素ラジカル)に起因するのかを確かめるために、それぞれの効果をβナフトール粒子の溶解速度と過酸化水素の発生量によって評価した。その結果、化学的な効果が透過処理には有効であることが明らかにとなったため、物理的な効果による細胞破壊を抑え、化学的な作用は維持されるように装置の改良を行ない、透過効果を向上させた。 (3)培養細胞の色素蓄積量および放出量のバラツキを定量的に評価するために、細胞集団の顕微鏡像を画像処理することにより、統計的に解析する方法を確立した。すなわち、写真撮影可能な生物顕微鏡、ビデオカメラ・データプロセッサなどからなるカラー画像処理システムを用い、各細胞内の色調の平均値の細胞毎の分布を数値化し、標準物質と比較して濃度として定量化するソフトを構築した。
|