研究概要 |
前年度と同様,赤色色素アントシアニンを蓄積したイチゴ(Fragaria ananassa cv.Shikinari)培養細胞に超音波を照射し,細胞レベルで画像処理技術を応用することにより,各細胞ごとの色素の放出挙動について、統計的な解析を行い、超音波による連続的透過処理に必要な条件(超音波の強度、処理液の組成、温度、pH等)を明確にするための検討を引き続き行なった。特に,前年度の研究成果から,この超音波による放出効果を規定する因子が,化学的なものである可能性が高くなったので,超音波照射に伴う過酸化水素生成量を滴定することにより,ラジカル生成量を定量的に評価した。その結果,振動子と細胞懸濁相の間に膜を介することにより,ラジカル生成速度を維持したまま,キャビテーションの生成を抑えることが可能であることが示された。また,このような条件下では,色素の透過率(生存放出率)が比較的高く維持されることが示された。さらに,比較的低温条件の方が細胞の生存率の維持が容易であることもわかった。しかし,色素の生存放出率は,放出率の増大とともに低下しており,超音波以外の方法によるラジカルの発生も検討したが顕著な効果はなかった。 次に,超音波による透過処理がどのような細胞に対して有効なのかを明らかにするために,培養の各段階における色素蓄積量の異なるイチゴ細胞を用いて,同様の検討を行なったが,放出率に大きな差は見られなかった。一方,植物細胞に対する超音波の作用と蓄積物質の透過性を関係付ける指標として、細胞膜または,細胞壁の流動性に着目し、細胞膜に取り込ませた棒状の蛍光分子を偏光で励起し、照射される蛍光の旋光度を測定することにより、これを評価した。培養のフェーズによって膜流動性が異なることが示されたが,このことが色素の放出とは直接に関連はしていなかった。
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