研究概要 |
本研究においては,植物培養細胞を用いた有用物質生産系に関して,細胞内に目的生産物を蓄積してしまう例として,イチゴ(Fragaria ananassa cv.Shikinari)培養細胞を用いた植物色素アントシアニンの生産を取り上げ,細胞内蓄積生産物の超音波による透過処理プロセスを開発するために,工学的な観点から実験的な検討を行った。 (1)イチゴ培養細胞によるアントシアニン生産に影響を与える因子 まず,イチゴ培養細胞のアントシアニンの経時的な生産挙動に影響を与える因子,特に,溶存酸素濃度,窒素源の寄与について明らかにした。 (2)超音波透過処理の条件 続いて,上記の色素生産細胞系を用いて,超音波(約1MHz)を用いた透過処理プロセスの有用性に検討を行なった。超音波照射の作用を物理的な側面と化学的な側面に分けて実験的に評価し,細胞内色素の放出は,主として,超音波によって生じるキャビテーションによる化学的な作用(ラジカル生成)によること,細胞の失活は物理的作用により生じることを指摘し,処理槽の改良を行なうことにより,細胞の死滅を抑制した状態で色素の透過率(生存放出率)を比較的高く維持することが可能であることを示した。 (3)超音波による透過処理の機構 蛍光プローブを用いた偏光解消法による実験から,細胞膜の流動性が,超音波の細胞に対する作用に関与することが示唆された。また,個々の細胞内に蓄積された色素の定量的評価法を,画像処理装置を用いて確立した。 以上の結果は,本系のみならず,広く植物細胞を用いた有用物質の連続的生産に対して有用な知見を与えることになる。
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